未承認の電気石

・マンガン電気石(Tsilaisite)

　マンガン電気石(Tsilaisite)についての最初の報告は1929年に発見されたマダガスカルのTsilaisina産のもので、およそMnを20wt．％含むリチア電気石でした。この電気石の化学組成を解釈するために、マンガン電気石という、理論上の新しいトルマリンの端成分の名称が提案されたのでした。マンガン電気石の化学組成式は、鉄電気石のFeをMnに置き換えた、

NaMn₃Al₆(BO₃)₃Si₆O₁₈(OH,F)₄

で表されます。しかし、この端成分を少なくとも50％以上有する天然の電気石はまだ発見されていないことから、Tsilaisiteという名称は公式には認められていません。その後、宝石質のMnリチア電気石が1980年代中頃にザンビアから発見され、カナリー・トルマリン(Canary Tourmaline)という名称で出回っています。この電気石は黄色を帯びているのでカナリア(Canary)に因んで名付けられました。

　1994年にタンザニアのSanga-Sangaで鉄電気石の核とリチア電気石の外層をもつ電気石が発見されましたが^*)、鉄電気石とリチア電気石の境界層ではMnがおよそ20wt．％含まれていて、マンガン電気石と鉄電気石又はリチア電気石との固溶体となっています。Sanga-Sangaの電気石は鉄電気石に対応する核の部分が黒く、リチア電気石に対応する外層が薔薇色となっていますが、境界層のマンガン電気石を含む部分は黄色乃至褐色を帯びています。

*)extraLapis No.6: Turmalin, CHRISTIAN WEISE VERLAG MUENCHEN

・バナジウム苦土電気石(Vanadiumdravite)

　バナジウム苦土電気石(Vanadiumdravite)という名称はまだ公式名ではありませんが、1999年に IMA（国際鉱物学連合）で苦土電気石のAlをVに置き換えた、

NaMg₃V₆(BO₃)₃Si₆O₁₈(OH,F)₄

で表される化学組成式の電気石が提案されました。この電気石は暗緑色または黒色をしているそうです。

・バナジウム灰電気石(Vanadiumuvite)

　バナジウム灰電気石(Vanadiumuvite)についても未承認ですが、http://www-2.cs.cmu.edu/~adg/adg-pgimages.htmlに、上述のマンガン電気石、バナジウム苦土電気石と共に紹介されています。このページで紹介されていたのは、ミャンマー産の緑色の結晶でした。化学組成式はおそらく、灰電気石のAlをVに置き換えた、

CaMg₃V₅Mg(BO₃)₃Si₆O₁₈(OH,F)₄

で表されるのでしょう。